竹製温泉冷却装置「湯雨竹」

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竹製温泉冷却装置「湯雨竹」

「湯雨竹」施工日記

時代が生み出した「温泉マニア」

話はややそれるが、ここで「温泉マニア」と呼ばれる人々について触れておこう。

今でこそ「源泉かけ流し」とか「循環方式」という言葉がテレビや週刊誌などで普通に使われている。
だが、ほんの2〜3年前までは、温泉マニアを除いてこんな言葉を知っている人はいなかった。

では、いつごろから、温泉マニアと呼ばれる人々が登場してきたのだろうか。

温泉が大好きで、その泉質や効能についてこだわりを持つ人は昔から各地に点在していた。
ただ、それらの人々はあくまでも個人の嗜好としてのレベルにとどまっており、社会的に発言力を持つまでには至っていなかった。

この状況を一変させたのが、インターネットの普及だった。
インターネットは、当初、一部の限られた人々の間でのみ利用されていたが、次第に一般にも普及するようになり、1997年〜1998年(平成9年〜10年)ごろには、日本の公的機関の職員の名刺にもメールアドレスが印刷されるようになった。これは一般の人々が日常的にインターネットを利用し始めた時期といえる。
このころからニッチとかマニアといわれる人々が、インターネットを介して活発に情報交換を行うようになった。

温泉マニアと呼ばれる人々には世代的な特徴があると言われている。一般的に温泉マニアは、昭和30年生まれ以下に多く、昭和20年生まれ以上の世代には温泉マニアがいないという点だ。
つまり、昭和20年生まれ〜昭和30年生まれの世代がギャップとなっている。

なぜ、このようなことが起きたのだろうか。それは子どものころの入浴習慣に起因している。
ギャップ以上の世代の人々は、子ども時代に毎日入浴する習慣を持っていない人が多く、お湯がたっぷりあるだけで幸せと感じる傾向がある。これに対して、ギャップ以下の世代の人々は、毎日入浴することが常識となっているので、温泉といえば温かいお湯がたっぷりとあるのは当然で、プラスアルファの何かがあるのだろうと期待を持って温泉を訪れる。

このような世代の人々が、自らが体験した温泉の感想をインターネット上で交換するようになり、次第にお湯の質を論じあうようになった。その内容たるや「色はどうだ」「臭いはどうか」「つるつるするか」「泡があるか」「保湿感があるか」「口に含んだ時の味がどうだったか」などこと細かい。さらにはインターネット上だけでは飽きたらず、実際に会って一緒に温泉めぐりをするようになった。その中から特に温泉通と評価される人物も登場するようになって、さまざまなメディアに登場しては発言するようになった。やがて温泉マニアは法律さえも変えてしまう存在になっていくのだが、それについては後述する。

ともあれ、社会的な発言力を持った温泉マニアは、これまでいい加減な管理をしていた温泉施設経営者にとっては頭の痛い存在となった。

その点、真面目な温泉管理を行っていたひょうたん温泉®にとって、温泉マニアは力強い味方といえる存在で、ひょうたん温泉®の泉質を高く評価してくれていた。
その一方で、国民総温泉マニア化現象は困った事態も引き起こしていた。それは中途半端な温泉マニアを生み出したことだ。
彼らはいろいろなメディアから得た知識をもとに温泉施設を批判してくる。

ある日、一人の温泉ファンがひょうたん温泉®のスタッフに、こんなクレームをつけてきた。

湯口からお湯がチョロチョロとしか流れていないじゃないか。こんなのは源泉かけ流しじゃない。たまり湯だ。

これは「源泉かけ流しの看板に偽りあり」といっているようなものだ。
この話をスタッフから聞いた河野社長は、一瞬頭に血が上った。

そういいますけどね、源泉ではドバドバお湯が湧いてるんですよ。それをそのまま入れてもいいんですよ。
いいですけどね、なんせ100℃のお湯ですからね。大量かけ流ししたら、お客さん方は皆さん焼け死にますわ。

と言いたかった。
だが、冷静になって考えてみると、お客様からそういう声が上がっている以上、対策を講じなければならないのではないかという気持ちがわいてきた。
第一、

そんなにドバドバ湧いていて、湯口はチョロチョロかよ。余りの湯はどうしてるんだよ?

と突っ込まれたら、

それがねえ、ぜーんぶ裏の川へ捨ててますねん

などと環境省が目を剥きそうな恥ずかしい事実を明らかにせねばならない。

といって、どうすればいいのか。加水だけは絶対に避けたい。加水せずに短時間で温泉を冷やすなどということができるのだろうか。河野社
長は同社の河野健司専務とともに頭をひねっていた。
そんな時だった。二人の友人である斉藤雅樹が、ひょうたん温泉®にやってきた。斉藤は温泉好きが高じて『大分の極上名湯』という本を後年出したほどの温泉マニアだ。

斉藤さん、実は困ってますねん

大阪で仕事をしていたことがある河野社長は、大阪弁で斉藤に悩みを打ち明けた。
すると斉藤はこともなげに

だったら、装置で冷やしたらいいんですよ。大体、源泉のお湯は余りまくってるじゃないですか。
適温まで冷やせば大量かけ流しが実現できます。お湯ももっと良くなりますよ。

と答えた。熱ければ冷やす。このごく当たり前といえば当たり前すぎる答えに、河野社長と河野専務は目からうろこが落ちる思いだったという。
長年、熱い温泉をためて冷やすという方法しかとってこなかった温泉経営者にとって、水以外の物を使って温泉を冷やすという発想は微塵もなかったのだ。