竹製温泉冷却装置「湯雨竹」

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竹製温泉冷却装置「湯雨竹」

「湯雨竹」施工日記

見ても楽しい冷却装置を作りたい

斉藤は、大分県内の企業に対して技術支援を行っている公的機関「大分県産業科学技術センター」(大分市)の主任研究員であることから、工業関係の製品に詳しかった。
工業の分野にはすでにクーリングタワーや熱交換機と呼ばれる装置がある。これを導入すれば、簡単に熱い温泉を冷やすことができると考えたのだ。「熱ければ装置で冷やせばいい」と斉藤は言ってはみたものの、果たしてそれだけでいいのだろうか…。

機能的ではあるものの、あの無機質な装置は温泉施設にはどうもそぐわない。温泉施設は工場やビルの屋上ではない。癒しの場である。温泉マニアである自分自身、そんな無機質な装置が見え隠れする温泉施設に行ってみたいと思うだろうか。せっかく冷却装置を作るなら機能的であるばかりでなく、見ても楽しいもの、そして別府らしいものにしたいものだ。
それに、もう一つ気がかりなことがある。工業的な装置には金属やプラスチックが材料として使われている。ひょうたん温泉の源泉は100℃もあるし、かなりの酸性でもある。金属やプラスチックが湯中に溶け出すのではないかという不安だ。

「そうですね。温泉にそんなものが溶け込んでいると知ったら、お客さんは入りたくないでしょうね」

泉質第一主義の河野社長にとって、温泉の汚染は論外である。
さらに、耐久性の問題もある。せっかく冷却装置を導入したとしても、温泉の熱で装置の寿命が短くなっては、高額な予算を注ぎ込む意味がない。
河野社長たちは、再び頭を抱え込んでしまった。

「それじゃあ、こうしましょう。どんな材料なら温泉に影響を及ぼさないのか、耐久性はどうなのか、実験してみるんです」

斉藤の意見で、河野社長たちは素材実験を行うことにした。

実験は、ひょうたん温泉の源泉から木でつくった桶に温泉(97℃)を引いて、そこに銅、アルミニウム、セラミックスを沈め、素材の変化の過程を観察するというものだ。
4カ月後、実験は思わぬ結果となった。金属系の銅、アルミニウムは、腐蝕して穴が開いてしまった。期待していたセラミックスは腐蝕こそしなかったものの、温泉の成分がべったりと付着していた。

「これやったら、使い物になりまへんなあ」

河野社長たちは落胆した。斉藤もある程度の予測はしていたとはいえ、これほどまでとは思わなかった。

「うーん」

重苦しい雰囲気が包もうとしていた瞬間、斉藤があることに気づいた。

「あれ!? これだけは大丈夫だ」

斉藤は実験素材を入れておいた桶を指差した。

「ほんまや、木だけは何も変化してまへんなあ」

そういえば、群馬県の草津温泉でも山形県の蔵王温泉でも、熱い湯、強い泉質を誇る温泉地では、浴舎も浴槽も木で作られていることが多いではないか。

「木で冷却装置を作りましょう」

3人の意見はすぐに一致した。斉藤の頭の中には、すぐさま冷却装置の構造が描かれた。それは、すでにある金属製クーリングタワーの構造をベースにした、木製クーリングタワーの姿だった。

木製クーリングタワーが完成すればひょうたん温泉のみならず、高温の源泉を持ち同じような悩みを抱える温泉施設や旅館・ホテルにとっても朗報となるはずだ。となれば、公的な開発資金を補助してもらえるのではないか…。3人の夢は別府名物の湯煙のように、天空をめざして吹き上がった。

平成13年、河野社長と河野専務は経済産業省に補助金を申請し、趣旨を説明して開発援助の理解を求めた。
ところが、どんなアプローチも実を結ばない。国にすれば一見「時代遅れのローテク」と思える装置の開発に、血税を投じることを躊躇したのだろう。

一方、斉藤も当時担当していた仕事が忙しくなり、木製クーリングタワーの開発にとりかかれずにいた。すでに木製クーリングタワーのコンセプトこそできていたが、心の片隅で「木よりももっといいものがあるのではないか」という想いも去来していた。そのことも一つのブレーキになっていたのだ。