竹製温泉冷却装置「湯雨竹」

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竹製温泉冷却装置「湯雨竹」

「湯雨竹」施工日記

小規模温泉施設向けの「湯雨竹ミニ」が完成

ほどなく意外な所から「試験的に湯雨竹を設置したい」というオファーが舞い込んで来た。その発注者とは、市営温泉を14ヵ所所管する別府市役所だった。
湯のまち・別府には、各地区に地域の住民が入浴することができる市有区営温泉がある。ひょうたん温泉®がある鉄輪地区にも「渋の湯」という共同浴場(地域外の人も100円を支払えば入浴できる)があるが、ここに湯雨竹を設置したいという申し入れだ。ひょうたん温泉®ほどの高温ではないものの、渋の湯の源泉も85℃ある。渋の湯では、これまで水道水を加水することで入浴に適した温度に調節していたが、これにかかる水道料金が比較的水を使わない冬場でさえ高額なものになっていた。
別府市にかかわらず地方自治体は、現在どこでも行財政改革が大きなテーマになっている。湯雨竹の導入によって水道代が節約できれば、別府市にとって大きな経費軽減になる。
河野社長と河野専務は初の注文に喜んだが、それもつかの間で、すぐさま頭を抱えることになった。

「どないしょう、専務。受注は嬉しいけど、ほんまにできるやろか」

大型施設であるひょうたん温泉®と共同浴場の渋の湯では、あまりにも条件が違い過ぎるのだ。ひょうたん温泉®は敷地が広いので湯雨竹を設置する場所に困らなかったが、渋の湯にはそんな場所はない。浴槽の壁一つ隔てて源泉がある。流量もひょうたん温泉®が毎分約330リットルであるのに対して、渋の湯は毎分約10リットルほどしかない。

「斉藤さんに相談してみるしかないでしょう」

河野専務は、大分県産業科学技術センターの斉藤に電話をかけるため受話器を持ち上げた。
後日、河野社長、河野専務、豊田、斉藤の4人は、ひょうたん温泉®から歩いて数分の渋の湯にいた。

「考えてみれば、どこの温泉でもひょうたん温泉®ほどの大規模な温泉施設はありません。渋の湯はミニマムな例といえるでしょう。逆にいえば、渋の湯の案件を解決できれば、高温で悩むどこの温泉施設にも湯雨竹が設置できるという証明になるはずです。簡単ではないかもしれないけど、最適な湯雨竹を作りましょう」

湯雨竹は、装置の高さがポイントである。熱い湯が下に落ちる間に、いかに大気と多く触れさせるか。高さが取れれば設計は簡単である。ところが、渋の湯は配管の都合から「高さ40cm」という制約があった。

「高さ40cm?ひょうたん温泉®の約1/10じゃないですか!そんなの無理ですよ」

斉藤と豊田は心の中で思わず叫びそうになったが、制約があればあるだけ、技術開発のしがいがあるというものだ。開発者である豊田と斉藤のチャレンジスピリットに火がついた。その後、プロジェクトは県のグッドデザイン事業にも採択され、プロのデザイナーによる指導を受けて実験を重ねる日々が続いた。
それから約半年後。渋の湯の浴槽の端に、三角柱を横にした木と竹の装置が設けられていた。よく見ると源泉から引いたパイプが接続されている。竹を割って作った覆いの内側には、2段の竹枝ユニットが見える。ひょうたん温泉®に設置されている湯雨竹とは姿こそ異なるが、まぎれもなく湯雨竹の小型版「湯雨竹ミニ」である。それにしても小さい。サイズはわずか縦60cm×横180 cm×高さ40 cmである。これほど小さくても源泉の温度を下げることができるのだろうか。

「ひょうたん温泉®の湯雨竹と比べると小さく感じるかもしれませんが、85℃の源泉を60℃にまで下げることができます。混雑時のみ少々の加水は必要ですが、水道料金は大幅に節約できるでしょう」

豊田と斉藤は、自信に満ちた表情でこう言った。
彼らの言葉が実証されたのは、それから数カ月後のことだった。

「専務、これ見てみい。すごいで!」

河野社長は手に持った書類を見ながら、興奮した面持ちで河野専務を呼び寄せた。河野社長が手に持っているのは、湯雨竹ミニの設置前と設置後の水道使用量と料金が記された書類だ。

「わっ、こりゃすごい!」

河野専務は目を見開いた。湯雨竹ミニの設置前(平成18年1月25日〜3月24日)の水道使用量は690リットルで、水道料金は11万9、430円。一方、設置後(同年5月24日〜7月24日)の水道使用量は455リットルで、水道料金は6万3,735円。水道料金は約半分になっている。
しかも設置前のデータは自然冷却が進み、水道の使用が比較的少なくて済む晩冬から初春であり、設置後のデータは水道の使用量が多くなり始める春から夏にかけてのデータである。
さらに平成17年12月下旬〜1月下旬の水道料金を見てみると、約20万円とあることから、湯雨竹ミニの設置によって実質3分の1まで水道料金を縮減できたことになる。湯雨竹ミニは当事者も驚くほどの予想を上回る効果を上げたわけだ。
しかも渋の湯の場合、源泉からの自然落下方式で給湯できるため、電気などの動力がかからない。
稼動だけに限っていえば、ランニングコストが不要という点も見逃せない。

かくして、湯雨竹は大型タイプから小型タイプまでをカバーできるものとなった。同時に大分県産業科学技術センターの機能を活かして、実用新案登録(第3112971号)も果たし、知的所有権の確立に成功した。
これで(株)ユーネットのオリジナル商品として営業展開を図ることができる。
もちろん、社内体制の問題や営業面の問題などがすべてクリアーになったわけではないが、それらは時間の経過とともに解決されていくであろう。

温泉の泉質や鮮度を守り、お客様に満足していただける温泉を提供したいという河野社長らの思い。
日本有数の温泉都市である別府から全国に発信できる技術を生み出したいという斉藤ら技術陣の思い。

その両者の思いと熱意が、竹という別府の特産品を活用した湯雨竹という画期的な装置を生み出したのだ。
いつの日か別府のあちらこちらで、いや全国各地の温泉地で、景観にさりげなくなじんだ湯雨竹の姿を見かける日がやってくるかもしれない。

〈終〉文:一丸幹雄